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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9091号 判決

原告

(イリノイ州)

サミユエル・ジェイ・ボビール

代理人弁護士

兼子一

畔柳達雄

花岡巌

被告

株式会社カッター

右代表者清算人

丹野雄二郎

被告

丹野雄二郎

右被告ら代理人弁護士

田利治

後藤孝典

主文

被告らは、各自原告に対し、金九、八八六、七三四円とこれに対する昭和四二年九月一六日から完済まで年五分の割合による金員とを支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。

この判決は、仮りに執行することができる。

事実《省略》

理由

一原告がその主張にかかる特許権および意匠権の権利者であり、被告会社が別紙目録記載の食料切断器を、これにフードチョッパーを添えてこれと組とし、昭和四〇年九月一日から昭和四二年四月三〇日までの間に、一セット一、一七〇円で総計二一一、二五五台製造販売したこと、右食料切断器の製造販売行為が本件各権利を侵害するものであることは当事者間に争いがない。

二被告会社に対する請求について原告が被告会社の前記侵害行為がなかつたならば、本件各権利の実施品を昭和四〇年七月一日から昭和四二年一二月三一日までの間に少くとも三〇万台を販売してその利益を取得しえたとの事実を認むべき証拠はない。侵害行為がなかつたものと仮定した場合に実施品をどの程度販売し得たかを立証することは必ずしも容易ではないところ、成立に争いのない甲第一六号証の一の記載は、供述者たる原告本人の推定を述べたものにとどまり、この記載をもつてただちに右事実を肯認するに充分でないのみならず、これによると、原告は、B・B・Iの代表者であり、本件権利の実施品たる食料切断器は、専ら同社により、製造販売されていたのであつて、原告自身が販売利益を直接に享受しえたのではないことが認められるから、原告が右推定販売数額を根拠としてその販売利益の喪失を理由とし損害の賠償を請求する主張は、これを肯認することができない。

しかしながら、被告会社は、別紙目録記載の食料切断器をフードチョッパーと組にして、昭和四〇年九月一日から昭和四二年四月三〇日までの間に、卸売価格一セット一、一七〇円で総計二一一、二五五台販売したのであるから、これについてその実施料相当額を、権利者たる原告に対し、損害賠償として支払うべき義務があることは明らかである。

そこで、実施料相当額について考えるに、本件各権利の実施料率を算定すべき事実についての立証がないから、両者あわせて、被告の自認する卸売価格たる一個一、一七〇円の四%を相当と認め、前記販売数額にこの実施料率四%を乗じた金九、八八六、七三四円をもつて実施料相当額というべきであり、この認定に反する証拠はない。

したがつて、被告会社は、原告に対し、損害賠償として右金員を支払うべき義務がある。

三被告Tに対する請求

被告Tが別紙目録記載の食料切断器の製造、販売を決定したことは、当事者間に争いがない。

〈書証〉ならびに弁論の全趣旨を総合すると、被告Tは、別紙目録記載の食料切断器の製造販売を決意し、そのため被告会社を設立してその代表取締役に就任し、営業の決定権限をもつにいたつたものであること、被告会社のパンフレットには原告製品の写真をそのまま掲載してあること、昭和四一年四月四日原告の代理人たる弁護人S、同Mよりの警告を受けるや、直ちに右物件の販売を中止することを約したが、それにもかかわらず、その販売を継続し、再度の警告の結果、同年一一月一四日、書面をもつて販売中止と金型の廃棄とを約するにいたつたこと、右契約の後まもなく被告会社を解散させたが、その後も注文があれば在庫品の販売を継続していたこと、被告Tは右物件の販売に際して特許ないし実用新案登録の出願をしており工業所有権について無関心ではなかつたことなどが認められ、また、アメリカ人エルウッド・ロスから日本国内における製造、販売の実施権を得たと主張するが、その対価として一ドル七〇セントの単価で一、〇〇〇個譲り受けたというに過ぎないことなどに鑑みるとき、被告Tは原告の本件各権利を侵害するものであることを認識しながら、あえて被告会社を設立し、これを通じてその名下に前記販売行為をしたものと推認するに充分であり、この認定に反する証拠はない。

右事実によれば、被告Tは、被告会社とともに、同会社の販売行為にもとづく原告の前記損害を賠償すべき義務があるというべきである。

以上のとおりであるから、原告の被告らに対する請求のうち、金金九、八八六、七三四円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日以後の日であることの明らかな昭和四二年九月一六日から完済まで年五分の割合による遅延損害金との支払を求める部分は正当として認容することとし、その余は失当として棄却すべきものである。(荒木秀一 宇井正一 元木伸)

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